スーパーグローバル学部増田准教授

いかれた大学教員の思いつき

非常勤講師を待ち受ける未来

すでに時期を逃した感はあるが、大阪市立大学における非常勤講師の契約を巡り、非常勤講師の外注化を目指しているという計画が明らかになって、以後、TwitterのTLなどにも非常勤講師の待遇に関する発言がよく流れて来ていたので、少し書いておこうと思っているうちに時間が経ってしまった。

大阪市立大学が講師の外注を計画 組合は黙認しない

TLの反応を見ていると、非常勤の外注化の是非とともに、非常勤講師の待遇に関して、多くの関係者は問題意識を持っていることは分かるし、それは私自身も共有する。

しかし、現実的には、非常勤講師という不安定な立場に置かれている方々へのシンパシーの有無など問題でなく、大学の経営陣にとってこれが極めて効果的な選択であるということが問題なのである。

近畿大学に新設される国際学部でも、ベルリッツとの提携を打ち出し、その衝撃的な広報が話題を呼んだ。しかしこれは広報戦略の影に隠れてはいるものの、提携という名のもとで、非常勤で雇うはずであった講師を外部化することこそが重要であるように思う。

近畿大学 国際学部

このような講義の提供形態には多くの大学が後に続くことだろう。

まずは英語など外国語のパッケージを外注するところから始まると思われるが、今後、より広範な科目を提供する企業が現れ、導入する大学が続々と出てくることだろう。一般教養のパッケージを大学向けに提供すれば、かなりの需要があることは明らかである。個人の顧客が急減している予備校・塾産業にとっては大きなビジネスチャンスであるだろう。

まともな大学人であればあるほど、そのようなサービスを外注する大学があるか?そのようなサービスを提供する企業がありうるか?と問いかけたくなる気持ちも理解できる。しかしながら、すでに入試問題の作成を外注している大学があり、入試問題作成をサービスとして提供する企業があるのが現実である。非常勤講師に頼りがちなカリキュラムのパッケージに需要が無いはずはなく、需要があれば喜んで供給する企業は出てくるものである。

労働契約法の改正により、雇い止め問題を回避したい大学のニーズにもマッチしており、おそらく非常勤の外注化は多くの大学に広がっていくことだろう。

もちろん、非常勤を外注化することによって発生しうる問題、すなわち、非常勤講師としての待遇や大学教育の質をどう考えるのかというのは、まったく別の問題である。

個々の講師の方々の受け取る報酬は明らかに下がるだろう。現時点ですでに不安定な立場にある非常勤講師の方々は、ますます厳しい状況に置かれることになる。非常勤として勤務しながら常勤の研究者を目指しているような方々は、研究者としてのキャリアにほぼ完全に終止符が打たれると言っても良いだろう。

一方、授業の内容については、コントロールしやすくなる面もあれば、そうでない面も出てくるだろう。その点は契約の形や金額にもよるであろうし、大学の姿勢次第というところが大きくなるだろう。ただ、契約で示されたことだけを忠実に行う教育というのは、長期的には教育の質を低下させるだろう。

このような事態に直面して、非常勤講師の待遇改善を目指すべきであるという立場からの発言も少なくないことは、大学コミュニティの救いではあるのかもしれない。しかしながら、非常勤講師の待遇改善を目指すということは、残念なことではあるが現実には以下ようなプロセスを加速するだけのように思う。

1)専任の教員が担当するコマ数を出来る限り増やし、2)カリキュラムをスリム化して大学全体で開講される講義数を削減し、3)非常勤講師に任せる必要のある講義を出来る限り減らす。

待遇改善の実現以前に、この変化はすでに多くの大学において見られるものであり、そもそも非常勤講師という職種の存立そのものが怪しい状況になりつつある。

近い将来、大都市圏においてさえ、専業の非常勤講師として生活していくことは困難になり、大学の非常勤講師というのは非常に稀な職業となっていくだろう。

国公立を含め、大学の未来そのものが厳しいとはいえ、そのなかでも特に非常勤講師として勤務している方々には厳しい未来が待ち受けていると言わざるを得ない。

それでもなお、非常勤講師の方々の待遇を改善すべきであるという主張があることは理解はできる。しかし、それは多くの大学の整理・再編・統合と引き換えにしか実現しない。逆に言えば、そうすることによって、現状以上に非常勤講師の方々の待遇を改善することは可能かもしれないが、当の非常勤講師はもちろん、専任の教員の絶対数も減るという現実を理解することも必要である。