スーパーグローバル学部増田准教授

いかれた大学教員の思いつき

高等教育無償化は可能か

なぜか憲法改正に絡んで想定外の方向から高等教育無償化の話が浮上してきた。現実問題として、財政的にそれは可能だろうか?公平性をどう担保するか?今回はそういった点を考えてみることにする。

 

まず、国家予算の大枠を見ておく。総額は約100兆円弱。このうち、社会保障費が30兆円強あり、文教科学技術振興費は概ね5兆円規模である。

これを前提とすることなく議論しても意味がない。

 

次に学生数の概況について。高等教育機関で学ぶ学生数は概ね360万人程度、そのうち1/5にあたる約60万人が国立大学に在籍している。残りは私立での大学や短大、専修学校である。

 

国立大学の授業料収入は総額は約3700億円となっている。国の予算の0.4%であり、これを無償化するのは充分可能であると言えるだろう。しかし、国立大学に通うのは、高等教育機関で学ぶ学生の2割に過ぎない。

高校の無償化と同じ方式で、私立の大学・短大・専修学校に通う学生に国立大学の授業料相当分を支援するとすると、1.8兆円を超える予算が必要となる。うち1.5兆円が私立向けであり、なかなか厳しい金額であろう。

 

ところで、無償化より奨学金をチャラにしたほうが効果があるのではという指摘があり、それはなかなか興味深いと思う。

 

 

学生支援機構で見てみると、貸出残高は10兆円に届くかどうかというところのようであり、毎年1兆円強が貸し出されている。

1兆円強というのは国立大学の運営費交付金とほぼ同じ規模である。

貸出残高をチャラにするための10兆円は一度限りの財政出動であり、それが解消してしまえば、あとは年間1兆円程度で給付型の奨学金を運用できるということになる。

 

給付型奨学金の実現と、高等教育の無償化を両立することはなかなか難しいであろうし、現実的ではないだろう。実際問題、高等教育を無償で受けられることになれば、奨学金のニーズもかなり減ることだろう。

ここで、一つの考え方として、国立の高等教育機関における授業料は無償化し、公立ならびに私立の高等教育機関向けに給付型の奨学金を創設するという選択があり得るだろう。

私立大学向けに関しては実質的な所得制限であると考えればよい。1.5兆円かかるところ、1兆円でカバーできるところまでは給付型奨学金で支援し、それ以上の高所得者層は自己負担という構図となる。

公立については、必要に応じて、設置者となっている自治体ごとに住民向けの措置がとられれば良いだろう。

概ね妥当かつ現実的な仕組みではないだろうか。

 

国立の高等教育機関の無償化に4000億円、給付型の奨学金に1.1兆円、あわせて1.5兆円で高等教育の「擬似的な」無償化が実現する。

国の予算の1.5%である。

一度限りの10兆円をどうするか、という問題の解決は簡単ではなく、ハードルは高いが、その気になれば実現は夢物語とも言えないと思うが、いかがだろうか。

 

もちろん、なぜ、私立の高等教育機関だけ所得制限がかかるのか、という指摘はあるだろう。しかし、まったく同様の支援を求めるということになれば、もはや私立大学としての存在意義はない。高等教育機関はすべて国立あるいは公立にしてしまえということになる。それはそれでひとつの方法であるとは思う。経営判断として、また、多様な支援の獲得も見据えて、公立への移管が進むならそれも良いだろう。だが、筆者の立場としては、基本的には高等教育機関としての多様性の確保を優先したいと思う。

 

【追記】

高等学校の無償化と同様に、4年を超えて在学する場合や、すでに学士を持っていて二つ目の学士を取得するために入学といったケースでは、無償化の対象とせず自己負担とするのは当然だろう。そうでなければ高学歴層が殺到することは目に見えている。